第一部

【I-021】黒薔薇の誘惑

ひとり書斎に戻り、机上に積み上げた書類に手を伸ばしたものの、内容が頭に入ってこず、ヴィクトールはそれを再び卓上に投げ出した。 戦の準備以外にも、山積する業務がある。国内議会の承諾書を精査し見解を示したり、貴族の嘆願書に裁可を下したり、城下町...
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【I-020】三大兵団

会議とはいっても、集まるのは自分と二人の配下だけだ。時間より少し早いが、ヴィクトールが約束の場所である自分の執務室に入ると、既にアルベールが応接机に座って書類に目を通していた。 「何だ、遅刻してくると思っていた。珍しく早いな」 そう言われる...
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【I-019】姉と弟

グランフェルテに伝わる伝統舞踊は、鑑賞する者の心を洗うかのような優美な舞である。純白の柔らかな衣装を、そよ風に舞い散る花弁のごとく大きく広げ、上下に優雅に波打たせる。その簡素さゆえに、踊り手自身の魅力が存分に発揮され、見る者を深く魅了するの...
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【I-018】砂漠からの旅人

「それは叶いません」 母が厳しい表情でそう言い放ったので、レオナールは面食らった。……あの放送の日に突然飛び出していく彼を黙認してくれたように、最近ではほぼ何事も微笑みながら受け入れてくれていたいうのに。 「……で、でもさあ、ふざけて言って...
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【I-017】中立軍の結成

エクラヴワには一体、城がいくつ存在するのだろう。……先ほど乗っていたものとは別の小型飛翔船の窓から、地上に広がる圧倒的な風景を目にしながら、エマは呆然と思いを巡らせた。 大王は世界中から集めた富と技術を駆使して無数の邸宅を建設し、貴族や役人...
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【I-016】三王子

いつもと変わらぬ、威圧感に満ちた巨大なアーチ型の門が、自分を待ち受けている。生まれた時から幾度となくこの下をくぐり抜けてきたのに、身体に重くのしかかる不快な圧力に、未だにレオナールは慣れることができなかった。 彼は、もう一度だけ……父である...
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【I-015】船上の取引

飛翔船は貴族や軍人の乗り物であるため、遠い空を小さく飛ぶ姿を憧れの目で眺めたことはあった。しかし、自分たちが実際に乗るのは生まれて初めてのことだった。 エマもリュックも、本来なら興奮してはしゃぎ回るか、慣れない浮遊感の恐怖を語り尽くして気を...
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【I-014】避けられぬ対峙

ついに、長き夜の帳が明けた。 本日、昼までにポーレジオンまたはエクラヴワからの申し出がなければ、前回の恐怖が再び繰り返されることになる。昨日去ったディアーヌと入れ替わるように、朝早くから次々と帝国兵たちが到着し、物々しく戦闘準備を開始する。...
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【I-013】耐え抜きながら

貴様、この化け物めが。 その呪わしき力を使えば、どうなるか忘れたのか。  よかろう。ならば、思い知らせてやるとしよう。 鋭い光が、容赦なく迫ってくる。足が竦み、その場から動くことが出来ない。 脚に、一瞬にして冷却されたかのような、灼熱で焼か...
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【I-012】潮騒の牢獄

自らの恋人を連れ去った獣使いの王に、若者は果敢にも戦いを挑む。驚異的な強さで追い詰められた獣使いの王は、万事休すとばかりに海へと身を投げた。しかし、その前に、金の鍵を飲み込んでいたのだ。若者は愛しの姫君が、普段は獣を入れておく狭い檻の中に幽...