第一部

【I-006】変貌した城内

シーマはひとり、殺伐とし始めた城内を突き進んでいた。権力を落としかけた老人を脅していても無意味だと感じた彼は、その世話を帝国軍に任せ、マリプレーシュ城へ直接の手がかりを探しに来ていた。  歴史の浅いこの国では前例のない規模の混乱である。帝国...
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【I-005】定刻来たる

店内の客たちは、血の気を失ったかのように顔を青くし、またある者は半信半疑の様子で、慌てふためきながら一斉に散っていった。店主までもが店を放り出して裏の自宅へ退避したが……エマとリュックの姉弟は衝撃のあまり、その場から動けなくなるほどの衝撃を...
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【I-004】神器の伝説

『……という訳であるから、この度は通信という最新技術を披露する絶好の機会に、その方、グランフェルテを使ってやったのだ。今日ばかりは遠慮せず大いに喜ぶが良いぞ』  ロドルフ・マクシミリアン・エクラヴワ五世大王。実力で覇権を握った初代大王マクシ...
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【I-003】少女と剣士

彼女は、迷っていた。  つい先日、十七歳の誕生日を迎えたばかりのエマは、化粧室の鏡の前で立ち尽くしていた。小袋から取り出した櫛で、肩まで届く淡い金茶色の髪を丁寧にとかしながら、ふと眉を寄せて小首を傾げる。彼女の顔は世間一般で言う“美人”とい...
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【I-002】運命の子

森の中にひっそりと建てられた小さな家。それは「小屋」という言葉がふさわしいほど質素なものだった。  それまでイザベルが住んでいた城と比べれば、比較にならないほど狭い。下僕扱いされていたとはいえ、かつては絹のドレスを身に纏い、静かな室内で豊か...
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【I-001】悲運の女帝

グランフェルテ帝国は、特殊な国家であった。帝国と名付けられてはいるものの、皇帝に権力は無いに等しかった。代わって実権を掌握していたのは、今や世界を支配するほどの勢力となった、エクラヴワ大王国である。  とはいえ、『帝国』とは初めから単に名ば...
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【I-000】プロローグ

世界が混沌に陥る時、伝説の神器が目覚める。 そして、神器はその使い手を自ら選び出す。 神器は、その時を待ちわび、形を変え、眠り続けている。 神器が目覚めし時、選ばれし者により、正しくそれが使われたなら、世界は平穏を取り戻すであろう。 しかし...