第一部

【I-031】実力の差

こちらが来訪を告げる一発の空砲を放っただけだというのに、地上からは無数の砲撃が返ってきた。最初から容赦なく撃ち落とそうとする敵の意思は明白だ。 「おお、噂通りだな。随分と威勢がいいぞ」 ヴィクトールは船窓からその様子を確認し、まるで珍しい生...
第一部

【I-030】人質交渉

翌朝、レオナールはふたりを伴って王城へと向かった。簡素な獅子の石像が規則正しく並ぶ城門への街道には、民民の暴動を警戒するかのように多くの兵士が巡回し、彼らを獲物を狙う猟師のような鋭い眼差しで見つめていた。 やがて、吹雪く城門に辿り着く。温も...
第一部

【I-029】一足先に

緑色の船体は、ようやく海を渡り、ポーレジオン付近に差し掛かっていた。……帝国領となって三月ほど経った今、かつて拷問王が統治していた海沿いの街がどう変わったのか、エマは気になっていた。しかし、船は目立たないよう高度を上げて飛行しているため、地...
第一部

【I-028】白き花の影

小さな会議室の円卓上で、魔術将軍の細い指が示したのは……アロナーダとは対照的に、グランフェルテから遥か北方に位置する地域だった。世界を見下ろす『誇りある不死鳥』の首の部分に当たる場所には、フィジテールという国名が記されている。 「ここは古く...
第一部

【I-027】護衛の騎士

あの衝撃の宣戦布告から、およそ三カ月……かつての大王国領マリプレーシュとポーレジオン王国が次々と瞬く間に制圧される様を目の当たりにし、世界は深い恐怖に震えていた。……しかし、その後しばしグランフェルテ帝国の動きがはたと停止したように見えたた...
第一部

【I-026】希望を抱いた会話

アロナーダの公用船に紛れて停泊していた飛翔船だが、街が寝静まった深夜に動かすのは少なからぬ緊張を伴った。グランフェルテに監視されていないか、攻撃を受けないかと神経を尖らせながら、緑色の船体は静かに夜空へ浮かび上がった。 アナは傷だらけで帰還...
第一部

【I-025】その晩の思い

波立ってしまった気分を抑え込み、咄嗟に切り替えるのが得意でないということは、自分でも分かっている。しかしカリムス王は自身も多忙な中、この急な対戦が入る前から饗応の用意をしてくれているのだから、それを無下にするわけにはいかない。 ヴィクトール...
第一部

【I-024】剣舞

城に隣接する市長官邸の一室へ、ジャンは息も絶え絶えに駆け込んできた。イメルダが後を追っていることすら気に留める余裕もなく、慌てふためいて扉を乱暴に閉める。 「おう」長椅子に座っていたレオナールが少し驚いて、その顔を確認する。「ジャン、早えな...
第一部

【I-023】寛大な王

今回この地に引き連れてきたのは、自らの護衛を務める騎士将軍アルベール、そしてこの計画を立案した魔術将軍メイリーンの二元帥と、不測の事態に備えた最小限の兵力、それから飛翔船整備のための技師たちのみである。世界はおろかアロナーダ城下町の民にさえ...
第一部

【I-022】北から砂漠へ

イメルダの乗ってきたという船を見て、一同は息を呑んだ。……南の大陸からの長旅に耐えうる堅牢な船を想像していたものの、目の前に現れたのは一般的な豪華客船を凌駕する、まさに海上の宮殿と呼ぶにふさわしい存在だった。 「え、イメルダおめえ……何者な...