第一部 【I-026】希望を抱いた会話 アロナーダの公用船に紛れて停泊していた飛翔船だが、街が寝静まった深夜に動かすのは少なからぬ緊張を伴った。グランフェルテに監視されていないか、攻撃を受けないかと神経を尖らせながら、緑色の船体は静かに夜空へ浮かび上がった。 アナは傷だらけで帰... 2024.09.17 第一部I-05 富饒な砂漠国編
第一部 【I-025】その晩の思い 波立ってしまった気分を抑え込み、咄嗟に切り替えるのが得意でないということは、自分でも分かっている。しかしカリムス王は自身も多忙な中、この急な対戦が入る前から饗応の用意をしてくれているのだから、それを無下にするわけにはいかない。 ヴィクトー... 2024.09.10 第一部I-05 富饒な砂漠国編
第一部 【I-024】剣舞 城に隣接する市長官邸の一室へ、ジャンは息も絶え絶えに駆け込んできた。イメルダが後を追っていることすら気に留める余裕もなく、慌てふためいて扉を乱暴に閉める。 「おう」長椅子に座っていたレオナールが少し驚いて、その顔を確認する。「ジャン、早え... 2024.09.01 第一部I-05 富饒な砂漠国編
第一部 【I-023】寛大な王 今回この地に引き連れてきたのは、自らの護衛を務める騎士将軍アルベール、そしてこの計画を立案した魔術将軍メイリーンの二元帥と、不測の事態に備えた最小限の兵力、それから飛翔船整備のための技師たちのみである。世界はおろかアロナーダ城下町の民にさえ... 2024.08.06 第一部I-05 富饒な砂漠国編
第一部 【I-022】北から砂漠へ イメルダの乗ってきたという船を見て、一同は息を呑んだ。……南の大陸からの長旅に耐えうる堅牢な船を想像していたものの、目の前に現れたのは一般的な豪華客船を凌駕する、まさに海上の宮殿と呼ぶにふさわしい存在だった。 「え、イメルダおめえ……何者... 2024.07.24 第一部I-05 富饒な砂漠国編
第一部 【I-021】黒薔薇の誘惑 ひとり書斎に戻り、机上に積み上げた書類に手を伸ばしたものの、内容が頭に入ってこず、ヴィクトールはそれを再び卓上に投げ出した。 戦の準備以外にも、山積する業務がある。国内議会の承諾書を精査し見解を示したり、貴族の嘆願書に裁可を下したり、城下... 2024.07.23 第一部I-04 安息と策謀編
第一部 【I-020】三大兵団 会議とはいっても、集まるのは自分と二人の配下だけだ。時間より少し早いが、ヴィクトールが約束の場所である自分の執務室に入ると、既にアルベールが応接机に座って書類に目を通していた。 「何だ、遅刻してくると思っていた。珍しく早いな」 そう言わ... 2024.07.12 第一部I-04 安息と策謀編
第一部 【I-019】姉と弟 グランフェルテに伝わる伝統舞踊は、鑑賞する者の心を洗うかのような優美な舞である。純白の柔らかな衣装を、そよ風に舞い散る花弁のごとく大きく広げ、上下に優雅に波打たせる。その簡素さゆえに、踊り手自身の魅力が存分に発揮され、見る者を深く魅了するの... 2024.07.03 第一部I-04 安息と策謀編
第一部 【I-018】砂漠からの旅人 「それは叶いません」 母が厳しい表情でそう言い放ったので、レオナールは面食らった。……あの放送の日に突然飛び出していく彼を黙認してくれたように、最近ではほぼ何事も微笑みながら受け入れてくれていたいうのに。 「……で、でもさあ、ふざけて言... 2024.06.30 第一部I-04 安息と策謀編
第一部 【I-017】中立軍の結成 エクラヴワには一体、城がいくつ存在するのだろう。……先ほど乗っていたものとは別の小型飛翔船の窓から、地上に広がる圧倒的な風景を目にしながら、エマは呆然と思いを巡らせた。 大王は世界中から集めた富と技術を駆使して無数の邸宅を建設し、貴族や役... 2024.06.26 第一部I-04 安息と策謀編