第一部

【I-016】三王子

いつもと変わらぬ、威圧感に満ちた巨大なアーチ型の門が、自分を待ち受けている。生まれた時から幾度となくこの下をくぐり抜けてきたのに、身体に重くのしかかる不快な圧力に、未だにレオナールは慣れることができなかった。  彼は、もう一度だけ……父であ...
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【I-015】船上の取引

飛翔船は貴族や軍人の乗り物であるため、遠い空を小さく飛ぶ姿を憧れの目で眺めたことはあった。しかし、自分たちが実際に乗るのは生まれて初めてのことだった。  エマもリュックも、本来なら興奮してはしゃぎ回るか、慣れない浮遊感の恐怖を語り尽くして気...
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【I-014】避けられぬ対峙

ついに、長き夜の帳が明けた。  本日、昼までにポーレジオンまたはエクラヴワからの申し出がなければ、前回の恐怖が再び繰り返されることになる。昨日去ったディアーヌと入れ替わるように、朝早くから次々と帝国兵たちが到着し、物々しく戦闘準備を開始する...
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【I-013】耐え抜きながら

貴様、この化け物めが。  その呪わしき力を使えば、どうなるか忘れたのか。   よかろう。ならば、思い知らせてやるとしよう。  鋭い光が、容赦なく迫ってくる。足が竦み、その場から動くことが出来ない。  脚に、一瞬にして冷却されたかのような、灼...
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【I-012】潮騒の牢獄

自らの恋人を連れ去った獣使いの王に、若者は果敢にも戦いを挑む。驚異的な強さで追い詰められた獣使いの王は、万事休すとばかりに海へと身を投げた。しかし、その前に、金の鍵を飲み込んでいたのだ。若者は愛しの姫君が、普段は獣を入れておく狭い檻の中に幽...
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【I-011】詰所への潜入

通信室から戻ったヴィクトールは、先程到着したばかりの、この仮の拠点と定めた建物の内部を改めて隅々まで見渡した。  試作段階の画像投影装置……これが大王の言っていた最先端の機械だろうか。その他にも、電気仕掛けの拷問道具のようなものが雑多に置か...
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【I-010】不穏な海の街

翌日の朝早く、白亜の船体を持つ飛翔船は、再び内海を越えるべく西の空へと舞い上がっていた。国でゆっくりと時を過ごしていては、期日に間に合わなくなってしまう。自らが定めた計画とはいえ、あまりにも余裕のない計画だと、ヴィクトールは溜め息をこぼした...
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【I-009】帰還

今が真夏である事を感じさせないほど心地良い風が、城の中にまで吹き込んでいる。ここに暮らす華やかな人々の心にも、ひとときの安らぎをもたらしていた。  一年を通して穏やかな気候に恵まれたこの美しい草原に城を建てたのは、今から三百年前に世界にその...
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【I-008】嵐の後

炎の嵐が去った城内は、かつての優雅な飾り付けの面影もない様相ではあったが、あの阿鼻叫喚の状況から一転して、驚くほど静かになっていた。  後を任された新首長ラミーは、彼と共にこの地に留まるよう命じられた一部の配下たちに何やら指示を出すと、城の...
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【I-007】紅蓮の皇帝

巨人の亡骸の後ろに、ひとりの青年が立っていた。  その右手には宝石がちりばめられた、彼自身の背丈ほどもあろうかという長大な剣が握られ、巨人の血でべっとりと濡れている。  ……だが、そんな光景はもはや些細なことに過ぎなかった。  人々の視線は...