第一章

【I-009】帰還

今が真夏である事を感じさせないほど心地良い風が、城の中にまで吹き込んでいる。ここに暮らす華やかな人々の心にも、ひとときの安らぎをもたらしていた。  一年を通して穏やかな気候に恵まれたこの美しい草原に城を建てたのは、今から三百年前に世界にその...
第一章

【I-008】嵐の後

炎の嵐が去った城内は、かつての優雅な飾り付けの面影もない様相ではあったが、あの阿鼻叫喚の状況から一転して、驚くほど静かになっていた。  後を任された新首長ラミーは、彼と共にこの地に留まるよう命じられた一部の配下たちに何やら指示を出すと、城の...
第一章

【I-007】紅蓮の皇帝

巨人の亡骸の後ろに、ひとりの青年が立っていた。  その右手には宝石がちりばめられた、彼自身の背丈ほどもあろうかという長大な剣が握られ、巨人の血でべっとりと濡れている。  ……だが、そんな光景はもはや些細なことに過ぎなかった。  人々の視線は...
第一章

【I-006】変貌した城内

シーマはひとり、殺伐とし始めた城内を突き進んでいた。権力を落としかけた老人を脅していても無意味だと感じた彼は、その世話を帝国軍に任せ、マリプレーシュ城へ直接の手がかりを探しに来ていた。  歴史の浅いこの国では前例のない規模の混乱である。帝国...
第一章

【I-005】定刻来たる

店内の客たちは、血の気を失ったかのように顔を青くし、またある者は半信半疑の様子で、慌てふためきながら一斉に散っていった。店主までもが店を放り出して裏の自宅へ退避したが……エマとリュックの姉弟は衝撃のあまり、その場から動けなくなるほどの衝撃を...
第一章

【I-004】神器の伝説

『……という訳であるから、この度は通信という最新技術を披露する絶好の機会に、その方、グランフェルテを使ってやったのだ。今日ばかりは遠慮せず大いに喜ぶが良いぞ』  ロドルフ・マクシミリアン・エクラヴワ五世大王。実力で覇権を握った初代大王マクシ...
第一章

【I-003】少女と剣士

彼女は、迷っていた。  つい先日、十七歳の誕生日を迎えたばかりのエマは、化粧室の鏡の前で立ち尽くしていた。小袋から取り出した櫛で、肩まで届く淡い金茶色の髪を丁寧にとかしながら、ふと眉を寄せて小首を傾げる。彼女の顔は世間一般で言う“美人”とい...
第一章

【I-002】運命の子

森の中にひっそりと建てられた小さな家。それは「小屋」という言葉がふさわしいほど質素なものだった。  それまでイザベルが住んでいた城と比べれば、比較にならないほど狭い。下僕扱いされていたとはいえ、かつては絹のドレスを身に纏い、静かな室内で豊か...
第一章

【I-001】悲運の女帝

グランフェルテ帝国は、特殊な国家であった。帝国と名付けられてはいるものの、皇帝に権力は無いに等しかった。代わって実権を掌握していたのは、今や世界を支配するほどの勢力となった、エクラヴワ大王国である。  とはいえ、『帝国』とは初めから単に名ば...
第一章

【I-000】プロローグ

世界が混沌に陥る時、伝説の神器が目覚める。 そして、神器はその使い手を自ら選び出す。 神器は、その時を待ちわび、形を変え、眠り続けている。 神器が目覚めし時、選ばれし者により、正しくそれが使われたなら、世界は平穏を取り戻すであろう。 しかし...